就業規則の不利益変更はいつ認められる?条件と手続きまで徹底解説

就業規則の不利益変更をイメージした、バランススケールと規程書類を確認する人物のフラットデザインイラスト

就業規則を変更したいと考えていても、

悩める若手社長

これは従業員にとって不利益になるのでは?
同意を得ずに進めても大丈夫なんだろうか?

と悩まれる経営者や人事担当の方は少なくありません。

従業員に不利な条件変更は労使トラブルの火種になりやすく、慎重な判断が求められます。とはいえ、経営上どうしても必要になる場面もあるでしょう。

今回の記事のポイント
  • 不利益変更とはどのようなものか
  • なぜ原則禁止とされているのか
  • 例外的に認められる条件と合理性の判断基準
  • 企業が取るべき実務対応とリスク管理のポイント
記事の執筆者

社会保険労務士 志賀佑一

社会保険労務士志賀佑一事務所代表。

経営者、従業員、会社がともに3WINの組織づくりをモットーに、人材が定着する会社づくりのサポートに尽力。

社会保険労務士として独立後は人事労務支援に加え、各種研修や制度導入などを通じてリテンション(人材流出防止)マネジメント支援にも注力している。

読み終える頃には、就業規則の不利益変更に関する法的ルールと実務上の注意点を体系的に理解し、自社で検討する際の判断材料を得られるはずです。

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目次

就業規則の不利益変更の基本知識

就業規則の不利益変更は、従業員にとって不利な条件変更を意味します。まずは、その基本的な概念や禁止されている理由、具体的にどのようなケースが該当するのかを理解することが重要です。

就業規則の不利益変更とは?

就業規則の不利益変更とは、会社が就業規則を改定することで従業員の労働条件を不利に変更することを指します。

具体的には、賃金や休日など、労働者にとって重要な条件が不利になる場合が典型例です。

たとえば以下のようなケースが挙げられます。

  • 基本給や各種手当の減額・廃止
  • 所定労働時間の延長
  • 年間休日数の削減

就業規則の変更は本来、労使間の合意に基づいて行われるべきものです。

しかし、現実には会社が一方的に改定を進めてしまうケースも少なくありません。そのため、法律では労働者保護の観点から一定の制限が設けられています。

就業規則の変更内容は、労働条件通知書に記載される労働条件との整合性も大切です。改正内容や記載方法を正しく押さえておくと、不利益変更に該当するかどうかの判断にも役立ちます。

不利益変更が禁止されている理由

不利益変更が原則として禁止されているのは、労働者の権利と生活の安定を守るためです。

労働契約法第9条では、使用者が労働者の同意を得ずに労働条件を不利益に変更することを禁止しています。

(就業規則による労働契約の内容の変更)※一部抜粋
第九条 使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。

労働契約法|e-Gov 法令検索

もし会社が自由に変更できるのであれば、労働者は常に不安定な立場に置かれてしまい、安心して働くことができません。

つまり、この規定の背景には次のような考え方があります。

スクロールできます
禁止の理由内容
労働者の保護労働条件が一方的に悪化すると生活に直接影響するため
契約関係の安定合意なしに契約内容が変えられると労使関係が不安定になるため
公平性の確保使用者と労働者の力関係の差を是正するため

どんな変更が不利益変更にあたる?

不利益変更にあたるかどうかは、変更の内容や程度、労働者が受ける不利益の大きさによって総合的に判断されます。

不利益変更の代表例

  • 基本給が大幅に減額される
  • 固定的に支払われていた手当が一方的に廃止される
  • 休日数が減り、勤務日数が増える

一方で、変更内容が軽微で、他の手当や待遇改善で補填される場合には、不利益変更とみなされないケースもあります。

志賀佑一

例えば、一部手当を廃止する代わりに新しい福利厚生を導入する場合などが該当します。

このように、単純に「条件が下がった=不利益変更」とは限らず、会社の事情や代替措置の有無なども踏まえて判断される点が重要です。

就業規則の不利益変更が認められる条件と合理性の判断基準

不利益変更は原則として認められませんが、例外的に有効とされる場合があります。その判断には合理性が欠かせず、変更の必要性や妥当性を多角的に検討する必要があります。

不利益変更が認められる条件

原則として、就業規則の不利益変更は法律で禁止されています。

しかし、例外的に「合理的な理由があり、かつ従業員へ適切に周知されている場合」には、有効とされることがあります。これは労働契約法第10条で定められている重要なポイントです。

※一部抜粋

第十条 使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。

労働契約法|e-Gov 法令検索

つまり、会社側が一方的に不利益変更を行えるわけではなく、以下の2つの要件を満たすことが求められます。

2つの要件

  • 変更に合理的な理由があること
  • 変更後の就業規則を従業員に周知していること

この2点をクリアしていなければ、不利益変更は無効と判断されるリスクが高まります。

特に、周知が不十分な場合は効力そのものが生じないため、実務上は「合理性」と「周知」の両面を徹底することが不可欠です。

変更に合理性があるとは?

就業規則の不利益変更を有効にするためには、「合理性がある」と社会的に認められることが必要です。

この合理性は一つの要素で判断されるのではなく、複数の観点を総合的に考慮して判断されます。

主な判断要素は以下の通りです。

判断基準内容のポイント
労働者の不利益の程度不利益が大きい場合ほど高い合理性が必要
変更の必要性経営悪化や事業運営上の必要性があるか
変更後の相当性他社と比較して著しく低水準でないか
協議の状況労働組合や従業員代表と十分に話し合われたか
その他の事情会社の経営状況や代替措置の有無など

たとえば、経営悪化によって人件費削減がやむを得ない状況であり、かつ代替措置が講じられている場合には合理性が認められる可能性があります。

志賀佑一

逆に、十分な必要性がなく、労働者の負担だけが増えるような変更は合理性が否定されやすいでしょう。

合理性は法律で明確に基準化されているわけではなく、裁判例や社会通念を踏まえて個別に判断される点に注意が必要です。

合理性の有無を判断するうえでは、賃金規程など他の規程とのバランスも重要です。特に賃金制度の見直しは、不利益変更と密接に関わります。

就業規則の不利益変更に必要な手続きと周知の方法

不利益変更を有効にするためには、適切な手続きを踏み、従業員が内容を理解できるよう周知することが不可欠です。準備から届け出、周知までの流れを押さえておくことが大切です。

就業規則の周知とは?

就業規則は、作成・変更しても従業員に周知されなければ効力を持ちません

周知とは、従業員がいつでもその内容を容易に確認できる状態を指します。具体的な方法としては、事業場への掲示や備え付け、書面の交付、社内ネットワークへの掲載などがあります。

重要なのは、単に形式的に公開するだけでなく、従業員が理解できるような工夫をすることです。

例えば、変更内容に関して説明会を開催することは、法的義務ではありませんが、誤解やトラブルを防ぐうえで有効な手段となります。

従業員の同意は必要か?

原則として、就業規則の不利益変更には従業員の同意が必要です。

なぜなら、労働条件は労働契約の重要な部分であり、一方的に悪化させることは契約の基本原則に反するからです。

ただし例外として、変更に合理性があり、かつ周知が適切に行われた場合には、同意がなくても有効とされるケースがあります。

しかし実務上は、同意を得ることなく進めると労使トラブルに発展するリスクが高いため、可能な限り従業員の理解と協力を得る努力が欠かせません。

不利益変更の手続きの流れ

不利益変更を進める場合は、法的要件を満たすだけでなく、段階的に丁寧な手続きを行うことが重要です。一般的な流れは次のとおりです。

  1. 変更案の作成
    変更理由や内容を整理し、具体的な案をまとめる。
  2. 従業員との協議
    労働組合または従業員代表と協議し、可能な限り意見を反映させる。
  3. 就業規則の変更
    協議結果を踏まえて正式に就業規則を改定する。
  4. 労働基準監督署への届出
    変更後の就業規則を提出することで法的手続きを完了させる。
  5. 従業員への周知
    掲示や書面交付などにより全従業員が確認できる状態にする。

この流れを軽視すると、変更の効力自体が認められないリスクがあります。とりわけ「協議の不足」や「周知の不備」は争いの原因になりやすいため注意が必要です。

就業規則の不利益変更に伴う企業側の対応とリスク管理

不利益変更を進める際は、企業としての体制づくりや従業員対応に工夫が求められます。実務上の留意点や潜在的なリスクを理解しておくことで、トラブルを未然に防ぎやすくなります。

不利益変更を検討する際の企業側の実務対応ポイント

就業規則の不利益変更は、従業員にとって不利な条件変更であるため、企業側が適切な準備と手続きを踏むことが極めて重要です。

以下の観点を押さえることで、トラブルを防ぎながら検討を進めることができます。

変更理由の整理と根拠資料の準備

経営状況の悪化や事業上の必要性など、なぜ変更が必要なのかを数値データや具体的な事例で裏付けしておくことが大切です。

労使協議の実施

労働組合や従業員代表と十分に協議することは、合理性を確保するうえで不可欠です。協議内容の記録を残すことも後日の証拠になります。

代償措置の検討

不利益を軽減するための代替手段(例:新しい手当や福利厚生制度)を事前に検討し、バランスの取れた制度設計を行うことが望まれます。

専門家への相談

不利益変更は裁判で争われやすいテーマであるため、社労士や弁護士といった専門家に相談し、リスクを最小化することが推奨されます。

このように、検討段階での入念な準備と第三者の視点を取り入れることが、企業経営の安定と労使関係の維持につながる最重要ポイントです。

不利益変更時の説明ポイントと注意点

就業規則の不利益変更を進める際には、従業員への丁寧な説明が欠かせません。労働条件の悪化は生活に直結するため、不安や不満を抱かせやすいからです。

説明の場では以下の点を意識することが重要です。

  • 変更の必要性:経営状況や事業戦略など、なぜ不利益変更が必要なのかを具体的に説明する
  • 変更内容の明確化:どの条件がどのように変わるのかを、数値や事例を用いて分かりやすく伝える
  • 代償措置の提示:不利益を緩和する施策(例:別の手当や福利厚生の追加)があれば必ず示す
  • 今後の見通し:変更によって会社や従業員にどのような改善効果が期待できるのかを伝える

説明は一度で済ませず、説明会・個別面談・書面配布など複数の方法を組み合わせて理解を深めることが望ましいです。

志賀佑一

従業員が納得感を持てるかどうかが、後々のトラブル防止に大きく影響します。

不利益変更が無効になるケースとリスク

不利益変更は、合理性と周知が欠けている場合には無効と判断されるリスクがあります。特に次のような場合は注意が必要です。

  • 経営状況の悪化など、変更の必要性が十分に認められない
  • 他社と比較しても著しく低水準な労働条件にされるなど、内容が不相当である
  • 労働組合や従業員代表と十分な協議を行っていない
  • 就業規則の変更内容を従業員に適切に周知していない

無効とされた場合、会社は従業員に対して変更前の労働条件を適用し続ける義務を負うことになります。さらに、従業員から損害賠償を請求される可能性も否定できません。

加えて、従業員のモチベーション低下や離職といった経営面でのリスクも大きくなります。

したがって、不利益変更を検討する際は、単に法的な要件を満たすだけでなく、「従業員との信頼関係を維持できるか」という視点を常に持ち続けることが重要です。

就業規則の不利益変更と並んで、雇用契約書との矛盾も企業が直面しやすい課題です。両者の優先順位を理解しておくことで、トラブルを未然に防ぎやすくなります。

まとめ:就業規則の不利益変更とは?法律と手続きのポイント

就業規則の不利益変更は、従業員の労働条件を不利に変えるものであり、原則として法律で禁止されています。

ただし、合理性が認められ、かつ従業員に適切に周知されている場合には例外的に有効となります。企業が対応を誤ると、無効と判断されるだけでなく、労使トラブルや経営上のリスクを招く可能性があります。

本記事のポイントを整理すると以下のとおりです。

押さえておきたいポイント
  • 不利益変更は原則禁止されている
  • 労働契約法第9条・第10条が根拠となる
  • 変更の合理性と従業員への周知が必須条件
  • 合理性は不利益の程度・必要性・相当性・協議状況などで判断される
  • 手続きには協議・届出・周知が欠かせない
  • 無効とされれば変更前の条件が適用される
  • 信頼関係維持の観点からも丁寧な対応が不可欠

不利益変更を検討する際は、法的要件を満たすだけでなく、従業員の理解と納得を得るプロセスが重要です。

志賀佑一

企業の一方的な判断ではなく、合理性と透明性を重視した対応が、長期的な労使関係の安定につながります。

無料相談のご案内

当事務所では、就業規則の改定や不利益変更の妥当性確認、労使トラブル防止のための制度整備をご支援しています。

  • 就業規則の不利益変更が有効かどうか判断できない
  • 従業員への説明方法や周知の仕方に不安がある
  • 労働契約法に沿った改定手続きが進められているか確認したい
  • 代償措置や代替案をどう設計すべきか悩んでいる
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