賞与の基本と制度設計で失敗しないための実務ポイント完全ガイド

人事制度や賞与設計をイメージしたビジネスオフィスの風景
悩める若手社長

賞与の金額、どうやって決めれば 不満が出ない?
今年は支給できるか不安だけど、社員にどう説明したらいい?

正社員とパートで扱いに差があるけど、これって問題ないの?

賞与は法律上“会社の任意”で支給するものとされていますが、現場では「支給して当然」という空気になっていることも多く、運用の曖昧さがトラブルを招きやすいテーマでもあります。

一方で、制度として整えていくには、評価制度や社会保険との関係、従業員への説明方法など、検討すべきポイントが多岐にわたります。

本記事では、賞与制度の「基本」から「制度設計」「支給基準」「評価連動の考え方」まで、実務に役立つ観点を整理してお伝えします。

今回の記事のポイント
  • 賞与とは何か?法律上の基本と社会保険・税務上の扱い
  • トラブルを防ぐための賞与制度設計のポイント
  • 支給対象者や支給額の決め方と評価連動の方法
  • 就業規則や賃金規程への適切な記載方法と整備方針
記事の執筆者

社会保険労務士 志賀佑一

社会保険労務士志賀佑一事務所代表。

経営者、従業員、会社がともに3WINの組織づくりをモットーに、人材が定着する会社づくりのサポートに尽力。

社会保険労務士として独立後は人事労務支援に加え、各種研修や制度導入などを通じてリテンション(人材流出防止)マネジメント支援にも注力している。

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目次

賞与とは?基本の定義と法律上の位置づけ

賞与は「任意支給」である理由

賞与(ボーナス)は、法律上、会社が任意で支給する賃金と位置づけられています。

つまり、給与と異なり、「必ず支払わなければならないもの」ではありません。企業の業績や方針に応じて、「支給するかどうか」「いくら支給するか」を決めることができます。

しかし、ここで注意したいのが、「慣例的に支給しているから」という理由で、明確なルールを定めずに運用しているケースです。こうした場合、社員側にとっては“当然もらえるもの”という意識が強くなり、任意支給とは言えない状態になる可能性もあります。

そのため、制度化と明文化によって、「任意性をどう担保するか」が重要なポイントになります。

賞与は賃金に含まれる?社会保険・税務の扱いも解説

賞与は「任意支給」である一方で、労働基準法上は賃金の一部とされます。

つまり、給与と同様に「賃金台帳への記載」が必要となり、社会保険料・雇用保険料・源泉所得税の対象にもなります。

実務上は、以下のような対応が求められます。

賞与は「給与とは別物」という感覚を持ちやすいですが、法的・実務的には給与と同等の扱いを受けるため、注意が必要です。

なお、「賞与を含めた賃金の定義や構成全体」を押さえておくことで、制度設計の理解がより深まります。賃金制度の全体像についてはこちらの記事も参考にしてください。

賞与制度を設計するべき理由とは?

慣習的な支給がトラブルを生む

「毎年支給しているから今年も当然あるはず」

そんな“慣習”によって社員の期待値が固定化されている企業も少なくありません。

もし業績悪化や経営判断により支給を見送った場合、「なぜ出ないのか」「評価が悪かったのか」といった不満や誤解を招くリスクがあります。

賞与制度の整備によって、こうした感情的なトラブルを防ぎ、会社としての説明責任を果たす体制を整えることができます。

曖昧な運用が「義務化リスク」につながる

就業規則や雇用契約書に「賞与支給に関する記載」がある場合、それが長年繰り返されると、“黙示の労働条件”として義務と見なされることがあります

とくに「支給する」「年〇回支給」などの表現があると、状況に応じて支給を見送ることが難しくなるケースも。

制度として明確に、「支給は会社の判断によること」「支給しない可能性があること」を事前に明記し、周知しておくことが重要です。

支給対象者の範囲と基準の決め方

雇用形態別(正社員・パート・契約社員)の注意点

賞与の支給対象は、企業ごとに自由に設計できますが、雇用形態による格差がある場合は特に注意が必要です。

たとえば、

といった状況は、同一労働同一賃金の観点から、説明責任が問われます

支給の有無や差を設ける場合には、その根拠を明確にしておき、制度として整合性のある説明ができる状態にしておくことが望ましいです。

退職予定者や在籍要件の考え方

賞与支給にあたり、「支給日当日に在籍している者に限る」というルールを定めている企業が多く見られます。

これは、退職予定者への支給をめぐるトラブルを回避するために有効なルールです。ただし、就業規則や社内ルールに明文化されていないと法的に有効とされない可能性もあるため、注意が必要です。

例えば、「賞与支給日は〇月〇日とし、その日に在籍している者に限り支給対象とする」といった記載を明確に行いましょう。

賞与の支給基準をどう設計するか

成績・勤続・業績など、評価軸のバリエーション

賞与の支給にあたっては、どのような基準で誰に支給するかをあらかじめ定めておく必要があります。以下のような支給基準が一般的です。

一般的な支給基準
  • 会社全体の業績に連動して支給

どの基準を採用する場合でも、誰に対しても説明可能な合理性と透明性が求められます。

「誰に・何を評価して・どれくらい支給するか」の明確化

賞与設計の中でも、最も社員の納得感に影響するのが、「支給対象」「評価ポイント」「金額の根拠」の3点です。

たとえば、

といったモデルをあらかじめ定めておくことで、賞与が「上司の裁量」ではなく、制度に基づいた公正な報酬であることが伝わります。

明確な基準があると、社内の不公平感や不信感を減らす効果もあります。

賞与支給額の決め方とモデルパターン

支給額の主な算出方法4パターン

賞与の金額設定には「自由度」がある一方で、「納得感のある基準」がなければ、不満やトラブルにつながりかねません。以下のような代表的な算出モデルがあります。

代表的な算出モデル
  1. 基本給 × 支給係数
     例:評価ランクごとにS=1.2、A=1.0、B=0.8などを設定
     → 成績評価と連動させやすく、成果主義との相性が良い方法です。
  2. 等級や職位別の定額支給
     例:主任5万円、係長10万円など役職に応じた定額支給
     → シンプルで説明がしやすく、制度運用の安定性が高まります。
  3. 全社員一律支給
     例:全員に10万円支給、もしくは役職ごとに一定額
     → 一体感や公平性を重視したい企業に向いています。
  4. 業績連動型支給
     例:会社の売上達成率や利益額に応じて賞与原資を決定
     → 経営状況に応じて柔軟に運用したい場合に適しています。

どのモデルを採用する場合も、「合理性」と「説明可能性」が制度としての信頼性につながります。

透明性を高めるための社内共有方法

賞与の金額に対する社員の不満は、「支給の根拠が見えない」という不透明感から生まれることが多いものです。

制度として透明性を高めるには、次のような工夫が有効です。

  • 評価フィードバックとセットで説明の場を設ける
    → 「あなたの成果がどう評価され、それがどう反映されたか」を伝えることで、納得感が大きく変わります。

「公平な運用」と「分かりやすい説明」は、制度の信頼性を支える両輪です。

賞与制度と評価制度を連動させる方法

よくある連動モデルと運用ポイント

賞与制度と評価制度を連動させることで、「頑張れば報われる」というメッセージが組織全体に伝わります。よくある連動パターンは以下の通りです。

連動パターン
  1. 評価ランク別係数モデル
     例:S評価は1.2倍、Aは1.0倍、Bは0.8倍
     → シンプルで分かりやすく、制度運用のベースになります。
  2. 評価点数に応じた段階的支給
     → 点数に応じて賞与額を細かく算出。細かな差を反映しやすい反面、評価制度の設計が重要です。
  3. 順位やランクに応じた原資分配方式
     → 全体の賞与原資を配分し、各部署や個人に按分するモデル。チーム目標との連動にも活用できます。

運用において大切なのは、制度と現場感覚が乖離しないようにすること。特に中間管理職が制度を正しく理解し、社員に説明できる体制を整えることが、スムーズな運用のカギとなります。

評価説明責任とフィードバック体制の重要性

評価制度と賞与が連動していても、「評価の中身が見えない」「なぜその評価なのかが分からない」と感じさせてしまうと、逆に不信感を招くことになります。

そこで重要なのが、評価結果の“説明責任”とフィードバックの体制です。

  • 面談や書面でフィードバックを行い、次への期待や成長の方向性を共有する

このように、「制度の整備」と「現場の対話」をセットで進めることが、賞与制度への納得感・信頼感につながります。

賞与制度を設計・運用する上での注意点まとめ

就業規則・賃金規程への記載ポイント

賞与制度を制度化する場合は、就業規則や賃金規程に正しく記載することが重要です。記載内容によっては、会社の意図しない“義務化”に発展するリスクもあるため、表現には細心の注意を払いましょう。

記載例
  • 「賞与は、会社の業績・勤務成績等を勘案して、支給する場合がある」
  • 「支給の有無および金額は、毎期見直すことがある」
  • 「支給日に在籍している者を支給対象とする」

曖昧な表現を避け、柔軟性を確保しつつも、社員への説明が成立する表現を心がけましょう。

賞与の種類(定期・決算・特別)と整備方針

賞与には複数の形態がありますが、支給実態と制度の不整合があると、トラブルの原因になります。以下のように区分・運用方針を整理しておくとスムーズです。

スクロールできます
賞与種別特徴整備方針
定期賞与(夏・冬)毎年恒例就業規則や賞与規程に明記
決算賞与業績次第で支給任意性を保ち、規程には記載しない(社内通達ベース)
特別賞与・報奨金貢献度・成果に応じたスポット支給評価の裏付けをもとに個別支給。制度に明記も可

「どの賞与が制度で、どれが裁量か」が明確になっていると、説明や社員対応が格段にしやすくなります

見直しタイミングと“もめない”制度運用のすすめ

賞与制度は一度作って終わりではなく、企業の成長や社員構成の変化に合わせて、見直しを行うことが大切です。次のような状況が見直しのタイミングのサインです。

賞与制度は「出す・出さない」だけでなく、“どう設計し、どう伝え、どう納得させるか”が肝要です。

「もめてから直す」のではなく、「もめる前に整える」——これが、トラブルのない制度運用の第一歩です。

まとめ:賞与の基本設計を見直すうえで押さえておきたいポイント

賞与制度は、ただお金を配る仕組みではなく、社員との信頼関係や組織の方向性を支える大切な制度です。制度が曖昧なままだと、不公平感やトラブルの原因になりかねません。

ここでは、賞与の基本設計を見直す際に押さえておきたいポイントを整理しました。制度の見直しや導入を検討している方は、ぜひ参考にしてみてください。

押さえておきたいポイント
  • 賞与は任意支給だが、法的には賃金として扱われる
  • 慣習的な支給は義務と誤解されるリスクがある
  • 雇用形態ごとの支給方針は説明責任を意識して設計する
  • 支給額のモデルは自社の方針と整合性を取って選ぶ
  • 評価制度との連動はモチベーションと納得感に直結する
  • 就業規則や賃金規程には柔軟かつ明確な文言で記載する
  • 制度の整備は“もめる前”に行うのがトラブル防止の基本

賞与制度は、会社の状況や組織体制に応じて柔軟に設計・見直しをしていくことが大切です。基本的な考え方をおさえた上で、自社に合った形で制度を整えることで、社員の納得感やモチベーション向上にもつながります。ぜひ今回の内容を、制度設計の見直しのヒントとしてご活用ください。

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