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給与のデジタル払いの上限っていくらなのか、賃金のデジタル払いの仕組みや指定資金移動業者の条件、100万円という数字の意味など、細かいルールまで把握しようとすると結構ややこしいですよね。
給与デジタル払いのメリットやデメリットを知りたい一方で、PayPayなどのスマホ決済サービスを使った給与受け取りで本当に大丈夫なのか、不安を感じている方も多いかなと思います。
ここでは、給与デジタル払いの上限に関するルールを中心に、賃金のデジタル払いの基本、資金移動業者と指定資金移動業者の違い、各サービスの受入限度額、導入手続きや労働者の同意の取り方まで整理してお伝えします。

社会保険労務士 志賀佑一
社会保険労務士志賀佑一事務所代表。
経営者、従業員、会社がともに3WINの組織づくりをモットーに、人材が定着する会社づくりのサポートに尽力。
社会保険労務士として独立後は人事労務支援に加え、各種研修や制度導入などを通じてリテンション(人材流出防止)マネジメント支援にも注力している。
この記事を読めば、キャッシュレス給与を検討している経営者・人事担当の方が、制度のポイントを押さえたうえで「導入するか・どこまで使うか」を判断できるようになります。
※なお、ここでお伝えする内容は2025年時点のものです

まずは、給与デジタル払いとは何か、どこに上限が設定されているのか、そしてなぜ上限が必要なのかという全体像から整理していきます。ここを押さえておくと、細かな規定や実務対応もぐっと理解しやすくなります。
給与デジタル払いは、賃金のデジタル払いとも呼ばれ、銀行振込に加えて、資金移動業者の口座に賃金を支払うことを認めた制度です。
現金払い・銀行口座振込に加える「第三の選択肢」として、キャッシュレス決済の普及や働き手のニーズに対応するために整備されました。
一方で、資金移動業者の口座に賃金を預け続ける形になるため、銀行預金と同じレベルでの保護をどのように確保するか、という点が大きな論点でした。
そこで労働基準法施行規則の改正により、第二種資金移動業者の口座を対象に、給与デジタル払いに使える残高には上限を設けるという考え方が採用されています。
背景にあるのは、万が一、資金移動業者が破綻した場合でも、労働者の賃金が極力保護されるようにすることです。資金移動業者には、信託などによる保全措置や保証スキームが求められていますが、それでも無制限に残高を積み上げるのではなく、一定の上限の中で利用してもらうというバランスが取られています。
つまり、給与デジタル払いの上限は、単なる技術的な制限ではなく、労働者保護とキャッシュレス化の推進を両立させるための安全弁として位置づけられていると考えておくと理解しやすいと思います。

法令上のポイントとして押さえておきたいのは、労働基準法施行規則に定められた次のような枠組みです。
制度のポイント
ここでいう「100万円」は、あくまで制度上の上限額(枠)です。
実務上は、各指定資金移動業者がこの範囲内で、より低い受入限度額を独自に設定しており、実際に従業員が給与デジタル払いで受け取れる残高は、各サービスの上限に従うことになります。
なお、賃金支払の原則そのものについて整理しておきたい場合は、事務所サイト内で解説している賃金払いの5原則と実務上の注意点を解説した記事も、併せて確認してみてください。

給与デジタル払いに利用できるのは、資金決済法に基づき登録された資金移動業者の中でも、厚生労働大臣の指定を受けた事業者(指定資金移動業者)に限られます。指定を受けるためには、次のような要件を満たす必要があります。
(参考):厚生労働省|賃金のデジタル払いが認められる資金移動業者
2025年時点で、賃金のデジタル払いについて指定を受けている主な資金移動業者は次のとおりです
| 指定資金移動業者 | サービス例 | 労働者口座の受入上限額の目安 |
|---|---|---|
| PayPay株式会社 | PayPay給与受取 | 20万円 |
| 株式会社リクルートMUFGビジネス | COIN+ | 30万円 |
| 楽天Edy株式会社 | 楽天ペイ等 | 10万円 |
| auペイメント株式会社 | au PAY | 10万円 |
※いずれも2025年時点の一般的な目安です。正確な上限額や条件は、必ず各サービスの最新情報で確認してください。
このように、法令上の枠は100万円ですが、実務上の残高上限は各サービスごとにもっと低く設定されているのがポイントです。
志賀佑一たとえば、PayPay給与受取であれば20万円の範囲内での利用を前提に制度設計されている、というイメージですね。
受入限度額の仕組みをもう少し具体的に見ておきます。
ここを理解しておくと、「給与の全額をデジタル払いにするのか」「一部だけにするのか」という設計を考えやすくなります。
多くの指定資金移動業者では、「労働者口座の残高が上限額を超えないようにする」ための仕組みを、次のような形で用意しています。
たとえば、PayPayであれば20万円、COIN+であれば30万円といったように、各サービスごとに「ここまでなら給与デジタル払いで受け取れる」というラインが設定されています。
月給がそれを超えている場合は、全額をデジタル払いにするのではなく、
一部だけをデジタル払い、残りはこれまで通り銀行振込
という組み合わせで設計するケースが多い印象です。
受入限度額はサービス側の設定であり、将来的に変更される可能性もあります。また、ボーナスなど高額の支給については、そもそもデジタル払いを利用せず銀行振込に限定する、といった社内ルールを設けている企業もあります。
高額の賞与やインセンティブを支給する会社は、制度設計の段階で必ず確認しておきましょう。
では、実際に給与支給時に上限を超えてしまった場合、どのような処理が行われるのでしょうか。基本的な考え方は次のとおりです。
このときに注意したいのは、給与計算上の「支払期日」に間に合う形で全額が支払われているかどうかです。デジタル払い分と銀行振込分の処理が別になっている場合、どちらかが遅れてしまうと賃金支払の原則(一定期日払い)に抵触するおそれがあります。
特に、複数の支払方法を組み合わせると、担当者の感覚では「支払処理は終わった」と思っていても、一部が正常に処理されていないケースが起こり得ます。
給与デジタル払いを導入する際は、支給額の確定から資金移動業者への入金、銀行振込までのフローを、システム・人の両面でしっかり整理しておくことが重要です。
また、賃金の一部をデジタル払いで受け取り、残りを銀行振込とする場合の労働者への説明も大切です。「毎月いくらまでがデジタル払いの上限なのか」「上限超過分はどこに振り込まれるのか」を事前に丁寧に案内しておくことで、トラブルを防ぎやすくなります。


ここからは、実際に給与デジタル払いを導入・運用する場面で、どのようなステップを踏めばよいのか、そして上限のルールを前提にどう活用していくかを、実務目線でお話ししていきます。


給与デジタル払いを導入する場合、いきなりシステムだけ入れ替えれば良いわけではなく、労使間の合意と就業規則の整備が欠かせません。一般的な流れは次のようになります。
就業規則の変更や届出の方法については、就業規則の届出に必要な書類と提出手順の解説の記事で詳しくまとめていますので、そちらも参照しながら進めていただくとスムーズです。
ポイントは、給与デジタル払いを「従業員の選択肢のひとつ」として位置づけることです。



全員に強制するものではなく、希望する人のみが利用する、という前提で制度設計・手続きを進めていきましょう。


給与デジタル払いの大原則は、本人の同意がある場合にのみ利用できるという点です。ここを曖昧にしてしまうと、後々トラブルの種になりかねません。
同意取得の際には、次のような事項を分かりやすく説明し、書面(または電磁的記録)で同意を残しておくことが望ましいです。
また、運用面では次のような配慮があると望ましいと感じています。
賃金は生活の基盤ですので、制度の説明や同意取得は「一度やれば終わり」ではなく、定期的な周知や見直しも意識しておくと安心です。
給与デジタル払いで受け取るのは、銀行預金ではなく、電子マネーやスマホ決済サービスの残高です。そのため、銀行口座とは違う特徴・注意点をきちんと押さえておく必要があります。
デジタルマネー残高は、日常の買い物やネットショッピング、公共料金の支払いなどにそのまま使えることが多く、チャージの手間を省けるのが大きなメリットです。一方で、家賃やローン返済など、従来どおり銀行口座からの引き落としが必要な支出とのバランスも考えなければいけません。
多くのサービスでは、残高の払い戻し(現金化)が可能ですが、手数料や最低金額の設定がある場合もあります。また、現金化できないポイントや、価格変動リスクのある仮想通貨などは、賃金支払方法としては認められていません。
賃金は「いつでも一定価値で利用できる日本円」で支払われる必要があります。ポイントや暗号資産など、価値が変動したり、現金化に制限があるものについては、賃金支払方法として使えないと考えてください。
スマホ決済アプリを利用する以上、パスワード管理や端末紛失時の対応といった、情報セキュリティの面も無視できません。企業としては、個人のアカウント管理は本人責任であることを前提としつつも、最低限の注意喚起や情報提供を行っておくと親切です。
最後に、企業側のメリットと留意点を整理しておきます。給与デジタル払いの上限を踏まえると、全てを置き換えるというよりは、「一部活用」や「従業員の選択肢の拡充」として取り入れるケースが現実的かなと感じています。
導入の主なメリット
導入時の留意点・デメリット



費用や安全性、法令遵守に関わる話ですので、「みんなやっているから」「とりあえず新しいから」という理由だけで導入するのはおすすめしません。
必ず、自社の賃金水準や従業員構成、システム環境を踏まえて、メリットと負担を慎重に見極めてから判断してください。
なお、賃金制度や支給方法全体を見直したい場合には、給与体系そのものや賃金規程の設計から検討したほうが良いケースも多いです。そうした場面では、個別相談やコンサルティングを活用していただくのが安心かなと思います。
ここまで、給与デジタル払いの上限を軸に、制度の背景から具体的な運用まで一通り整理してきました。最後に、重要なポイントをまとめておきます。
給与デジタル払いの上限は、一見すると単なる数字の制限のように見えますが、その背後には「賃金をしっかり守りながら、キャッシュレス時代に合わせていく」という考え方が息づいています。
制度の枠組みを理解したうえで、自社の従業員にとって本当にメリットがあるのかどうかを、落ち着いて検討していけると良いと思います。
もし、自社での導入可否や就業規則への落とし込みについて具体的に検討したい場合は、当事務所で個別の事情を伺いながら一緒に整理することもできますので、遠慮なく相談してもらえればと思います。
給与デジタル払いの導入や上限設定について、こんなお悩みはありませんか?
給与デジタル払いは便利な仕組みですが、上限の扱いや制度の枠組み、従業員への説明など、検討ポイントが多いのも事実です。
特に、「上限額の扱い」「サービスごとの受入額の違い」「就業規則の整備」 は、少し判断を間違えるだけで運用面での負荷やトラブルにつながりやすい部分です。
当事務所では、制度の解説だけでなく、企業ごとの実態に合わせた導入方法や、トラブルを避けるための運用ポイント を社会保険労務士が丁寧にヒアリングしながらご提案しています。
無理に制度導入を勧めるのではなく、「自社にとって本当に必要か」「どこまで活用するのが適切か」を一緒に整理していくことを大切にしています。
初回相談は無料です。
という方は、どうぞ気軽にご相談ください。
お申し込みは、下記のフォームから簡単に行えます。貴社にとって最適な給与支払方法を一緒に検討していきましょう。