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勤務時間外の連絡が労働時間にあたるのか、ここは多くの方が気になるところではないでしょうか。
「メールやチャットを確認しただけで残業代が発生するのか」
「電話に出たら労働時間に入るのか」
「オンコール待機はどこまでが対象なのか」
こうした疑問は、実務の現場でもよく聞かれます。
テレワークが広がり、PCログやチャット履歴が残る今、未払い残業代だけでなく、安全配慮義務や深夜連絡によるハラスメントのリスクも無視できません。
この記事では、勤務時間外の連絡が必ずしもすべて労働時間になるわけではないという前提で、「指揮命令下」という考え方を軸に線引きを整理し、実務での対応策まで分かりやすく解説します。
読み終える頃には、あなたの会社でどこからが労働時間になるのか、どうルールを整えるべきかが見えてくるはずです。
なお、勤務時間外の連絡や「つながらない権利」は、労働基準法改正の検討過程でも、企業実務への影響が大きい論点として議論されてきました。
2026年通常国会への改正案提出は見送られましたが、長時間労働の抑制や休息確保の方向性が後退したわけではありません。労働時間の適正把握や健康配慮は、引き続き重視されています。
そのため、勤務時間外の連絡が労働時間に当たるかどうかも、法改正を待つのではなく、現行法の枠内で整理しておくべきテーマといえます。
労働基準法改正見送りの経緯や、企業実務への影響全体については、労働基準法の改正見送りで企業が今すべき労務管理の実務対応と注意点で整理しています。

社会保険労務士 志賀佑一
社会保険労務士志賀佑一事務所代表。
経営者、従業員、会社がともに3WINの組織づくりをモットーに、人材が定着する会社づくりのサポートに尽力。
社会保険労務士として独立後は人事労務支援に加え、各種研修や制度導入などを通じてリテンション(人材流出防止)マネジメント支援にも注力している。

まずは判断の土台を揃えます。勤務時間外の連絡が労働時間に当たるかどうかは、形式よりも実態が重視されます。ここでは「すべてが労働時間ではない」一方で「条件が揃うと労働時間になり得る」ポイントを、連絡手段別に整理します。
結論から言うと、
勤務時間外の連絡がすべて労働時間になるわけではありません。
勤務時間外に通知が届いたとしても、その場で対応せず、翌営業日に確認して支障がない運用なら、基本的には「勤務時間外に労働した」と評価されにくいです。
たとえば、社内チャットで「今日の議事録、共有しました。明日見てください」といった連絡が入っても、実際に翌朝に確認するルール・雰囲気が定着しているなら、勤務時間外の労働時間性は強くはなりません。
ただ、多くの職場では「緊急じゃない」と頭では分かっていても、スマホに通知が来るとつい開いてしまいますよね。
そして「一応見ておこう」「既読だけ付けておこう」「短く返しておこう」が積み重なると、勤務時間外に業務判断や対応をしている状態になりやすいです。しかも、本人は“数分だから”と思いがちなのに、会社側は“業務が回っている”と感じてしまう。
このズレがトラブルの火種になります。
放置すると一番こわいのは、会社側が“やっている実態”に気づかないまま、証拠(ログ)だけが残ることです。労働時間として整理すべき場面なのに、勤怠上はゼロのまま。後から振り返ったときに「なぜこの時間にやり取りしているのか」「なぜ申請されていないのか」を説明しづらくなります。
押さえたい整理
なので、最初から「全部労働時間だ」「全部違法だ」と断じるより、まずは“勤務時間外の連絡が労働時間になりやすいパターン”と“そうではないパターン”を分けて、会社の実態に合わせた落としどころを作るのが現実的だと考えています。
勤務時間外の連絡が労働時間になるかどうかは、
結局のところ使用者の指揮命令下にあったと評価できるかが軸です。
ここがブレると、就業規則を整えても、勤怠システムを入れても、現場では迷いが残ります。
志賀佑一相談でも「規程上は残業禁止なのに、実態は深夜メールが当たり前」というケースをよく見ます。
こういう状態だと、規程より実態が優先されやすく、リスクが高まります。
指揮命令というと「やれ」「今すぐやれ」といった明確な業務命令を想像しがちですが、勤務時間外の連絡で問題になるのは、むしろ黙示の指示です。
たとえば、上司は「返信不要」と言っているのに、翌朝の朝礼で「昨日送った件、見た?」と全員の前で確認する。あるいは返信が遅い人だけ、評価面談で「レスが遅いよね」と言われる。
こんなことが繰り返されると、現場は「結局、勤務時間外でも見て返信しないといけないんだ」と受け取ります。これがまさに黙示の指示の典型です。
さらにややこしいのが、“個人の頑張り”に見えてしまうパターンです。本人が「好きでやっている」「自分の裁量で返している」と言っても、会社がその成果を享受している、放置すると業務が回らない、周囲も同じように対応している、といった事情があると、実態として指揮命令下と評価される余地が出てきます。
実務での見え方
「命令したつもりはない」でも、組織の空気や評価、業務の回し方で“実質的な強制”が生まれることがあります。ここを放置すると、後から説明が苦しくなりがちです。
ここまでの話を聞くと「じゃあ連絡は一切しない方がいいの?」となりがちですが、個人的にはそうは思いません。緊急対応が必要な場面もありますし、連絡が必要な業種もあります。
大事なのは、連絡そのものをゼロにすることではなく、指揮命令と評価されない運用(または評価される場合は労働時間として計上する運用)に整えることです。
次からは、メール・電話・オンコールで具体的に整理していきます。


メールやチャットは非同期コミュニケーションなので、「受信しただけ」で直ちに労働時間になるとは限りません。
ただ、現実にはメール対応が労働時間として評価される場面が多いのも事実で、境目はわりと“日常の運用”にあります。
メール対応が労働時間になりやすいのは、
受信→確認→判断→返信→(場合によっては調査・作成)と、仕事の工程が入りやすいからです。
本人は「2分で返しただけ」と思っても、その2分の中に業務判断が入っている時点で、完全に私的時間と言い切るのは難しくなります。特に、顧客対応や障害対応などは、文面の確認だけで終わらず、状況確認や社内共有がセットになりやすいです。
一方で、「勤務時間外にメールが届いても、翌営業日に見れば足りる」ことが明確で、上司も同僚もそれを前提に動いているなら、勤務時間外の労働時間性は下がります。
ここで効くのが、返信期限を“翌営業日”と明確にする運用です。「夜に送っても返信は明日でOK」が社内ルールとして定着しているだけで、勤務時間外対応が激減する会社もあります。
注意
勤務時間外にメール返信が常態化しているのに、勤怠上は残業ゼロのままだと、後から未払い残業代の論点になりやすいです。制度と実態のズレは早めに埋めた方が安全です。
実務上の悩みどころは「数分の返信を全部、分単位で労働時間にするのは大変」という点です。ここは会社の体制や勤怠システム次第で設計が変わります。



私が現場で提案することが多いのは、次の2軸です。
「メールは原則しない」と決めても、緊急対応はゼロになりません。だからこそ、例外の運用(申請のしやすさ、判断基準、評価との切り離し)までセットで整えておくと、無理なく回りやすいです。


電話はリアルタイムで行われるやり取りのため、出て業務の会話をした時間は労働時間になりやすいです。
メールと違って「返信は明日でOK」が通じにくいことが多いですよね。特に顧客や現場からの電話は、その場で判断を求められがちです。
通話時間が短くても、対応のために資料を確認したり、PCを立ち上げたり、社内連絡をしたりすれば、その付随時間も含めて整理が必要になります。
勤務時間外の電話対応で問題が大きくなるのは、次のようなパターンです。
ひとつは、緊急性が高くないのに“電話が常態化している”こと。もうひとつは、本人は「気を利かせて出ている」つもりなのに、周囲からは「出るのが当たり前」と扱われてしまうことです。
これが続くと、勤務時間外でも実質的に仕事モードから解放されにくくなり、健康面の負荷も積み上がります。
また「即時対応」が前提の運用だと、勤務時間外でも精神的な拘束が強くなります。
たとえば「鳴ったら必ず取る」「10分以内に折り返す」「出られないなら代替担当に即エスカレーション」など。
こうしたルールがあると、あなたの私生活の自由が削られ、労働からの解放が弱くなります。電話が鳴っていなくても「いつ鳴るか分からない」状態が続くと、結果として休息の質が落ちやすいです。
電話対応が“問題化しやすい”サイン
実務では、緊急性の高い業種や役職もあります。その場合は、緊急対応をゼロにするのではなく、発生した分を労働時間として正しく計上できる仕組みが重要です。



これを「隠れ残業をなくす設計」と呼んでいます。
電話対応を“なかったこと”にしようとすると、後で未払い残業代の論点にもなりますし、健康面でも無理が出ます。会社側も「緊急対応がある」こと自体は理解していることが多いので、あとは申請フローと判断基準を整えるだけ、というケースも多いです。
オンコール待機は判断が分かれやすいところです。
ポイントは「待機中にどれだけ自由があるか」です。言い換えると、労働から解放されていると言えるかが焦点になります。
場所の指定がある、飲酒制限がある、すぐ出動できる状態を求められる、頻繁に連絡が入るなど、拘束が強いほど労働時間(手待時間)として扱われる方向に傾きます。
オンコールでよくある誤解は「呼ばれたときだけ労働時間」と割り切ってしまうことです。確かに、拘束が弱ければ、呼ばれた時間だけを労働時間として扱う整理もあり得ます。ただ、拘束が強い場合や、呼び出し頻度が高い場合は、待機時間そのものが“労働に近い状態”として評価される余地が出てきます。
たとえば「いつ電話が来ても対応できるよう、外出は控える」「30分以内に現場に来い」と言われるような状態だと、私生活の自由が大きく制限されます。
逆に、連絡が来る可能性が低く、来ても対応まで時間の猶予があり、私生活の行動が広く許されているなら、待機時間全体を労働時間と評価しない整理もあり得ます。
ただし、ここで重要なのは“建前”ではなく“実態”です。「頻度は低いはず」と言いながら、実際には週末のたびに連絡が入っているなら、待機の設計が現実に合っていません。
オンコール待機のチェック観点
オンコールを運用するなら、
会社として「何をもって緊急とするか」「誰が一次受けするか」「代替要員はいるか」「計上方法はどうするか」を先に決めた方がいいです。
ここが曖昧だと、担当者だけが常に縛られ、結果として退職やメンタル不調の要因になりやすいです。
補足



オンコールは業種特性が強く、最適解が会社ごとに違います。だからこそ、現場の実態(頻度・拘束・対応の重さ)を棚卸ししてから制度を決めるのが近道です。


ここからは、放置した場合に起こりやすいリスクと、会社としての整え方です。勤務時間外の連絡は「労働時間」だけの話では終わりません。未払い残業代、証拠としてのログ、健康面の安全配慮義務、深夜連絡が引き金になるハラスメントなど、複数の論点が絡みます。
勤務時間外の連絡が労働時間として評価されると、問題になるのが未払い残業代です。ここは会社側も労働者側も神経質になりやすいところです。
とくに「本人が勝手にやった」「好意で返信した」という説明は、実態次第では通りにくいことがあります。会社が成果を享受している、返信が実務上必須になっている、放置すると業務が回らない、といった事情があると、指揮命令の色合いが強まるためです。
未払い残業代リスクが怖いのは、金額が積み上がりやすい点です。
勤務時間外のメール返信が1日10分でも、月に20日あれば200分。さらに複数人で起きていれば、会社の負担は一気に増えます。もちろん、実際の請求がどうなるかは個別事情によりますし、金額はあくまで目安です。
ただ、「短いから大丈夫」という感覚が、後から一番危ないのは間違いありません。
実務では、残業代の議論に入る前に次の棚卸しをおすすめします。
とはいえ、勤務時間外の連絡をすべて残業として扱うのは、現実的に難しい場面もあります。だからこそ、緊急時は労働時間として申請・計上する、緊急でない連絡は翌営業日対応に寄せるなど、運用の線引きを明確にしておくのが現実的です。
ルールがない状態だと、現場は「結局どうすればいいの?」となり、担当者の善意に依存します。善意は長続きしないので、仕組みにしてしまうのが一番です。
目安に関する注意
残業代の計算や端数処理、申請単位は会社の制度設計によって扱いが分かれます。一般論だけで決め打ちせず、就業規則や賃金規程、運用実態と合わせて整えるのが安全です。


最近の労務トラブルで増えているのが、PCログやメール送信履歴、チャットログが根拠として出てくるパターンです。
勤怠上は退勤しているのに、夜に業務メールを送っている、チャットでやり取りしている、クラウドにアクセスしている。こうした記録が残っていると、「その時間に労働していたのでは」という疑いが生まれます。
ここでやっかいなのは、ログが“客観的に見える”ことです。本人が「やっていない」と言っても、送信時刻・アクセス時刻は残ります。一方、会社側が「自主的にやった」と言っても、やり取りの内容や頻度、上司の指示の有無、評価との関係などで見え方が変わります。
つまり、ログがあると議論がゼロからではなく「このログをどう説明するか」から始まってしまうんです。
もちろん、ログがある=必ず労働時間、と単純化はできません。私用の閲覧や誤送信などもあり得ます。ただ、会社側が説明する必要が出てきますし、説明のためには「何が業務で、何が業務ではないか」を普段から整理しておく必要があります。特に自己申告制の会社は、申告と客観記録にズレが出やすいので注意が必要です。
労働時間の把握については、厚生労働省も「客観的な記録の活用」や「自己申告との乖離がある場合の確認」を求めています。一次情報として、次のガイドラインが参考になります。
(出典:厚生労働省『労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン』)
ログが絡むときの基本姿勢
ログが残る職場ほど“ルールがないこと”がリスクになります。
なぜなら、ログは消えませんし、後から話を合わせるのは難しいからです。
おすすめは、
の三点です。これをやるだけで、ログが残っても「会社としての方針」「例外処理の手順」が説明できるようになります。
勤務時間外の連絡は、賃金だけでなく健康面のリスクにもつながります。
深夜や休日に通知が頻繁に来ると、休息が削られたり、気持ちがオフにならなかったりしますよね。これが積み重なると、体調不良やメンタル不調につながることもあります。
ここでポイントになるのが安全配慮義務です。会社には、従業員が安全に働けるよう配慮する責任があり、働く時間だけでなく、休息や負荷の掛かり方にも目を向ける必要があります。
安全配慮義務の話は「過労死ライン」などの労災の議論とも関係してきますが、実務では、数字だけで判断しない方がいいと思っています。なぜなら、同じ残業時間でも、勤務時間外の連絡が多い人は「実質的に休めていない」ことがあるからです。
たとえば夜に何度もチャットが鳴る、休日に電話が来る、オンコールで常に緊張している。
こうなると、休息が質的に削られていきます。
会社としては、長時間労働の管理だけでなく、休息の確保や過重な負荷の兆候にも目配りが必要です。
勤務間インターバルの考え方が広がっているのも、「働く時間」だけでなく「休む時間」を含めて設計する流れが強まっているからです。勤務時間外の連絡を減らすことは、結果的に勤務間の休息確保にもつながります。
勤務間の休息確保については、別記事で実務的に整理しています。制度の議論と現場運用の落としどころを掴みたい場合は参考にしてください。
注意
健康やメンタルの不調は、個人差も大きく、原因も複合的です。会社の対応が直ちに違法と断定できるものではありませんが、勤務時間外の連絡が多い状態を漫然と放置するのは避けた方がよいです。


深夜連絡が続くと、ハラスメント(とくにパワハラ)の論点になることがあります。
というのも、発信側は「自分の都合で送っているだけ」「返事は明日でいい」と思っていることが多いからです。でも受け手は、深夜に上司から連絡が来るだけで「今返した方がいいのかな」「無視したら評価が下がるかな」と感じてしまう。これが積み重なると、私生活の侵害に近い状態になります。
ポイントは、業務上の必要性や相当性を超えていないか、私生活の侵害になっていないかです。
内容が翌日でも足りるのに夜中に送る、返信が遅いことを叱責する、既読が付かないことを責める。こうした運用はリスクが上がります。深夜連絡は、言葉が丁寧でも「時間帯」そのものが圧になりやすいので、私は管理職研修でも重点的に伝えることが多いです。



実務の相談でも、深夜の連絡自体が「圧」になっているケースをよく見ます。
発信側に悪気がなくても、受け手は「今対応しないといけない」と感じてしまう。ここを放置すると、労働時間の問題とハラスメントの問題がセットで出てきます。
しかも、ハラスメントは“主観”だけで決まるわけではありませんが、受け手が相談しやすい状況(窓口の整備など)が整っているほど、問題が表面化しやすくなります。
実務での対策はシンプルで、
深夜に送らない(送信予約を使う)、緊急連絡のルートを限定する、勤務時間外は返さなくてよいことを明確にする
この三つをセットにすることです。どれか一つだけだと形骸化しやすいので、後の「社内ルール整備」でまとめて落とし込みますね。
つながらない権利は、「勤務時間外は原則として業務に応答しない」という考え方を法的・政策的に整理しようとする動きです。
背景にあるのは、テレワークやスマートフォンの普及によって、勤務時間と私生活の境界が急速に曖昧になった現実です。勤務時間外の連絡が日常化すると、労働時間の問題だけでなく、休息確保やメンタルヘルスの観点でも無視できなくなります。
実際、過重労働対策の一環として労働時間の適正把握を強化する流れは続いており、厚生労働省もガイドラインで使用者に対して客観的な記録の把握を求めています(出典:厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」)。このような流れの中で、勤務時間外の連絡をどう扱うかは、単なるマナーの問題ではなく、労務管理の中核テーマになっています。
もっとも、日本では現時点で「つながらない権利」が一律の禁止規定として法制化されたわけではありません。近年の労働基準法改正の議論や有識者会議の検討過程でも、つながらない権利の明文化については検討対象に上がりましたが、一律の法的義務化は見送り方向と整理されています。
その背景には、医療・インフラ・報道・IT保守など、緊急対応が不可欠な業種の存在や、働き方の多様性への配慮があります。つまり「一律に遮断する」制度設計が現実に合わない場面がある、という判断です。
ここで重要なのは、法制化が見送られた=対応しなくてよい、ではないという点です。
むしろ、法的に画一化されなかったからこそ、企業ごとの設計力が問われる局面に入っています。実務の現場では、つながらない権利を「理想論」として扱うのではなく、「労働時間管理と安全配慮義務を整理するための実務ツール」として位置づけるのが現実的だと感じています。
つながらない権利を“完全遮断”と誤解すると、現場は回らなくなります。一方で、何もルールを設けなければ、勤務時間外の連絡が常態化し、労働時間や健康リスクの温床になります。
そこで有効なのが、原則と例外を明確に分ける設計です。
実務で使いやすい整理例
このように分けることで、現場は「これは明日でよい」「これは今対応すべき」と判断しやすくなります。また、管理職側も「深夜に送ったら部下が反応してしまう」という悪循環を止めやすくなります。ここが実務上とても大きいポイントです。
法改正の議論では、つながらない権利を法律で一律に義務化することについて慎重な姿勢が示されました。理由は主に三つです。
つまり、法律で細かく縛るよりも、各企業が自社の実態に応じてルールを整備する方が合理的、という方向性です。
これは裏を返せば、企業側に設計責任が移ったとも言えます。つながらない権利を巡る改正動向は見送りになりましたが、労働時間の適正把握や健康配慮の重要性が弱まったわけではありません。
むしろ、「法制化されなかった今こそ、自主的にルールを整えた企業が強い」と考えています。
勤務時間外の連絡について明確な方針がある会社は、トラブルを減らすだけでなく、人材確保やエンゲージメントの面でもプラスに働きやすいからです。
法改正の全体像や、つながらない権利を含む議論の整理については、以下の記事で詳しくまとめています。改正動向との位置づけを体系的に押さえたい場合は、あわせてご覧ください。
【2026年】労働基準法改正で企業が備えるべき実務ポイントまとめ
補足



つながらない権利は「誰も連絡してはいけない」という極端な話にしない方が、制度としては運用しやすいです。緊急連絡をどう扱うかまで含めて“制度化”することで、かえって労働時間トラブルやハラスメントリスクは減りやすくなります。
結論はシンプルで、社内ルールの明文化がいちばん効果的です。
勤務時間外の連絡をゼロにするかどうかではなく、「原則」と「例外(緊急時)」を言語化し、評価や不利益取扱いと切り離す。これが実務で一番効きます。
なぜ明文化が効くかというと、勤務時間外の連絡は“空気”で運用されやすいからです。空気だと、頑張る人ほど損をして、返せない人ほど居心地が悪くなる。そして最終的に、健康面の不調や離職リスクにつながります。
明文化は、その空気を「会社の方針」で上書きする作業です。しかも、トラブルが起きたときに「会社としてどういう運用だったか」を説明できる材料にもなります。
実務で効く一言
緊急でない連絡は翌営業日でよいを会社として宣言するだけで、現場の心理的負担がかなり減ります。
| 論点 | よくある失敗 | 現実的な対策 |
|---|---|---|
| 原則の周知 | 規程だけ作って現場に伝わらない | 管理職向けに「送る側のルール」もセットで周知する |
| 緊急の定義 | 緊急が拡大解釈される | 「事業継続に直結」など判断軸を入れ、例示を用意する |
| 申請フロー | 申請が面倒で結局申請されない | スマホで事後申請できる導線を作り、承認も簡素化する |
| 評価との切り離し | 返信が早い人ほど評価が上がる空気が残る | 評価項目から「勤務時間外対応」を外し、明確に宣言する |
| ログとの整合 | 勤怠とログがズレたまま放置 | ズレが出たら理由確認し、記録に残すルールを作る |
ルールは文章だけでも一定効果がありますが、運用が伴わないと形骸化します。管理職が深夜に送る癖が残っている、チャットが会議化している、緊急が拡大解釈される。こういうときは、運用ルールの見直しや、送信制限・アクセス制限などの仕組み(テクノロジー)も検討余地があります。
例えば、メールの送信予約を推奨するだけでも効果がありますし、チャットは「緊急チャンネル」と「通常チャンネル」を分けると、現場の心理負荷が減ります。
さらに一歩進めるなら、特定時間帯の送信を抑制する仕組み(ポリシー)を導入し、「送れない」状態を作るのも有効です。もちろん、業種特性や運用負荷を見ながら段階的にやるのが現実的かなと思います。
勤務時間外の連絡は、すべてが労働時間というわけではありません。
ただし、指揮命令の実態(黙示の指示を含む)や、即時対応が前提の運用、オンコールの拘束性などが揃うと、労働時間として扱われるリスクが高まります。メールでも電話でも、ポイントは「実態として、労働から解放されていたか」です。
そして、ここを放置すると、未払い残業代だけでなく、ログ調査による立証、さらには安全配慮義務やハラスメントの論点まで一気に広がりやすいです。
だからこそ、実務上、勤務時間外の連絡をどう扱うかを、労働時間と健康配慮の両面で整理し、ルールを明文化することをおすすめしています。
これをやるだけで、現場の迷いが減り、管理職の行動も整い、結果としてトラブルが起きにくくなります。
この記事のまとめ(実務での着地点)
なお、この記事は一般的な考え方を分かりやすく整理したもので、個別事案の結論を断定するものではありません。正確な情報は公式サイトや通達等もご確認ください。最終的な判断や社内規程への落とし込みは、事情に応じて変わりますので、必要に応じて専門家にご相談ください。
勤務時間外の連絡と労働時間の関係について、実務相談で特に多いポイントをQ&A形式で整理します。法的な原則と、現場での運用上の考え方を分けて確認すると、自社の対応イメージがつかみやすくなります。
メールを受信しただけで直ちに労働時間になるとは限りません。ただし、確認や返信、資料の修正など具体的な業務対応を行った場合は、その時間は労働時間と評価される可能性があります。特に「即時対応」が暗黙の前提になっている場合は、指揮命令下と判断されやすくなります。
業務に関する電話に応答し、指示を受けたり報告を行ったりした時間は、原則として労働時間と考えられます。通話時間が短くても、その前後で確認作業や資料準備を行った場合は、その時間も含めて整理する必要があります。緊急対応が想定される職種では、あらかじめ運用を明確にしておくことが重要です。
待機時間がすべて労働時間になるとは限りません。判断のポイントは、待機中の自由度です。場所の指定がある、応答までの制限時間が厳しい、頻繁に呼び出しがあるなど、拘束性が強い場合は労働時間と評価されやすくなります。実態に即して整理することが必要です。
一律に禁止すれば安心というわけではありません。医療やインフラ、顧客対応など、緊急対応が不可欠な業務もあります。重要なのは「原則として勤務時間外は対応しない」という方針と、「例外の定義」「対応した場合の労働時間計上」を明確にすることです。禁止だけでなく、例外処理まで制度化することが実務上は有効です。
現時点で、日本ではつながらない権利が一律の法的義務として明文化されたわけではありません。改正議論の中で検討対象となった経緯はありますが、法制化は見送り方向とされています。ただし、労働時間の適正把握や安全配慮義務の観点から、勤務時間外の連絡を放置することがリスクになる点は変わりません。
まずは現状把握です。メールやチャット対応が実質的な残業になっていないか、ログと勤怠の整合が取れているかを確認します。そのうえで、「原則」「例外」「労働時間の計上方法」「評価との切り離し」を整理し、就業規則や社内ガイドラインに明文化すると、トラブルを未然に防ぎやすくなります。
勤務時間外の連絡は、労働基準法改正の議論や「つながらない権利」の検討過程でも注目されてきたテーマです。法制化は見送られたものの、労働時間の適正把握や安全配慮義務の観点から、実務上のリスクは依然として残っています。
制度の考え方は理解できたものの、
と感じられる場合は、下記のご相談フォームをご利用ください。
労働時間の線引きだけでなく、改正動向やガイドラインの内容も踏まえながら、勤務時間外の連絡に関する実務対応を整理いたします。
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