賃金規程の整備ガイド|設計・規程作成・実務運用までプロが徹底解説

賃金規程の整備をイメージしたチェックリストと書類が並ぶオフィスデスクのイラスト
悩める若手社長

給与制度や昇給・賞与のルールを整備したいけど、、

「この内容を賃金規程にどう書けばいいのか分からない」
「規程はあるけど、社員にうまく説明できない」

このような悩みはありませんか?

賃金規程は、法律に則った整備が必要なのはもちろんですが、実際の現場では「制度の見せ方」「社員への伝え方」も同じくらい重要です。

曖昧なルールや不十分な説明は、従業員の不満やトラブルの原因になりかねません。

そこで今回は、制度設計と実務運用の両面から、賃金規程を整えるためのポイントを整理してお届けします。

今回の記事のポイント
  • 賃金規程の基本的な位置づけと就業規則との違い
  • 自社に合った賃金制度の設計方法と手当の明文化ルール
  • 評価制度と昇給・賞与の関係性の記載方法
  • 社員に納得される制度運用と、トラブルを防ぐ表現の工夫


規程の見直しや制度構築のヒントとして、ぜひご活用ください。

記事の執筆者

社会保険労務士 志賀佑一

社会保険労務士志賀佑一事務所代表。

経営者、従業員、会社がともに3WINの組織づくりをモットーに、人材が定着する会社づくりのサポートに尽力。

社会保険労務士として独立後は人事労務支援に加え、各種研修や制度導入などを通じてリテンション(人材流出防止)マネジメント支援にも注力している。

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目次

賃金規程とは?整備の目的と基礎知識

賃金規程とは、会社が従業員に支払う賃金の内容と支給ルールを明文化したものです。単なる書類ではなく、人事制度や経営方針と直結する重要な文書でもあります。

法令では、就業規則に賃金に関する一定の事項を記載することが求められていますが、実際には賃金の体系が複雑になるケースも多いため、就業規則とは別に「賃金規程」として切り分けて運用するのが一般的です。

賃金規程とは?就業規則との関係と位置づけ

就業規則は、労働条件全般を定めた文書であり、賃金・労働時間・服務規律などを含みます。その中の「賃金部分」を切り出し、詳細に整理したものが賃金規程です。

たとえば、就業規則に「賃金は規程による」と簡潔に記載し、具体的な内容は別添の「賃金規程」に委ねる構成とすることで、以下のようなメリットがあります。

  • 給与制度の変更時に就業規則の大幅改訂が不要になる
  • 手当や支給基準の変更などを柔軟に運用しやすい
  • 社内の等級・職種別ルールを整理しやすい

一方、就業規則内に賃金規程を統合するケースもありますが、その場合でも労働基準法で定める「賃金に関する絶対的記載事項」をすべて含む必要があります。

企業の制度の複雑さに応じて、本則記載か別規程とするかを判断することが重要です。

【参考】厚生労働省|モデル就業規則

賃金規程の作り方|制度設計と明記ルールのポイント

制度設計の出発点は、「どんな報酬体系で、どんな人材を評価・処遇したいか」を明確にすることです。

規程はその結果を表す“ツール”に過ぎません。したがって、規程の整備を始める前に、まず制度そのものの方向性を定める必要があります。

賃金制度をどう設計するか?自社に合った仕組みの考え方

賃金制度の設計は、企業が掲げる経営戦略や人材育成の方針と密接に関係します。制度設計で失敗すると、社員のモチベーション低下や不満の温床となるため、慎重な設計が求められます。

設計時に考慮すべき観点は、以下のとおりです。

  • 役割・職務・等級に応じた処遇の公平性
  • 成果に応じたメリハリのある賃金構成
  • 継続的な運用・改善が可能な制度設計
  • 事業環境や業績の変化に耐えられる柔軟性

なお、他社や業界全体の賃金制度・労働条件の傾向を把握したい場合は、労働政策研究・研修機構(JILPT)の統計データも参考になります。

制度設計においては、賃金規程は“表現ツール”に過ぎず、まず中身=報酬制度そのものをしっかり固めることが先決です。

志賀佑一

理念先行でなく、現場にフィットした制度設計を行うことが成功のポイントです。

なお、賃金制度を設計する際には、どのような「賃金形態」を採用するかも重要な検討材料となります。それぞれの特徴や選び方については、以下の記事もあわせてご覧ください。

基本給・各種手当の設計ポイントと明記ルール

制度の納得感を生むうえで、基本給や手当のルール設計は非常に重要です。特に手当については、誰にどのような基準で支給されるのかを明確に記載しないと、社員間で不公平感が生じやすくなります。

よくある手当の例としては、以下のようなものがあります。

よくある手当の例
  • 役職手当:管理職などの役職者に支給
  • 職務手当:特定業務や負担がある職種に支給
  • 資格手当:業務に活かせる資格の保有者に支給
  • 家族手当・地域手当:生活補助目的

たとえば、職務手当を一律で支給していた企業が、業務内容や責任の重さに応じて等級別に見直したことで、社員の納得度が向上し離職率が低下したという事例もあります。

賞与・昇給・評価との連動をどう規程に落とし込むか

賞与や昇給に関するルールは、社員にとって最も関心が高い部分です。特に評価制度と連動している場合、その仕組みが不明確であると、「評価は良かったのに昇給がなかった」といった不満が生じます。

規程上における表現の工夫としては、以下のような明記方法が有効です。

  • 「評価結果に応じて賞与支給額を決定する」
  • 「S評価=支給〇ヶ月、A評価=〇ヶ月、B評価=支給なし」

評価制度そのものが規程でなく社内資料等で別管理されている場合でも、評価の存在と連動の仕組みを示す一文は最低限必要です。明文化の有無が、制度の信頼性とトラブル回避に直結します。

納得される賃金制度にするための運用・説明設計

どれほど整った制度であっても、社員に理解されなければ“機能していない制度”となります。納得感を得るには、制度内容を伝える仕組みが不可欠です。

制度に“納得感”を持たせるルールと説明設計

制度の納得性を高めるには、情報の伝え方や対話の設計が欠かせません。以下のポイントを意識すると効果的です。

  • 専門用語は避け、わかりやすい日本語で記載
  • 人事担当や管理職が説明できるよう研修や資料を整備
  • 評価面談や給与通知時に、制度の目的や基準をフィードバック

「評価が高かったのに昇給・賞与がなかった」という不満は、制度設計の不備というよりも、説明不足による認識のズレから生じるケースが多く見られます。

あえて“書かない”判断が有効なケースもある

すべてのルールを規程に詳細に記載することが、必ずしも良いとは限りません。

とくに、業績に応じた変動賞与や評価配分ルールなど、年度ごとに見直す余地のある項目については、別途「支給要領」や「社内ガイドライン」で運用する方法も有効です。

その目的は以下の通りです。

  • 環境変化に柔軟に対応するための余地を確保する
  • 社内資料で機動的に調整可能にする
  • 経営判断を制度に即座に反映しやすくする

ただし、その場合も社員に対し、「規程に記載がない=不透明」にならないように、補足資料の存在を明示する運用体制が必要です。

こんな表現は要注意!トラブルにつながるNG例

規程の文言には、法的リスクを避ける観点からも注意が必要です。実務上、以下のような曖昧表現は避けるべきとされています。

  • 「支給することがある」:任意性が強く、不支給時にトラブルになりやすい
  • 「上長の判断により決定」:恣意的・主観的と受け取られかねない
  • 「原則として支給する」:例外規定が曖昧だと後の運用で争点に

実際に「原則として支給」と記載されていた手当が廃止されたケースでは、従業員が不利益変更だと主張し、訴訟に発展した事例もあります。表現はできる限り具体的かつ客観的に整備しましょう。

賃金規程の改定・周知・雇用形態別対応の実務まとめ

賃金規程の整備には、「設計」だけでなく「運用」や「更新」の視点も欠かせません。特に実務では、雇用形態の違いに応じた対応や、改定時の手続きなどを押さえておく必要があります。

正社員・契約社員・パート等、雇用形態別の対応の工夫

近年、特に注目されているのが「同一労働同一賃金」の考え方です。これにより、職務内容や責任が同等であるにもかかわらず待遇に大きな差がある場合、法的・社会的な指摘を受ける可能性が高まりました。

しかし、すべてを正社員と同じにすればよいという話ではありません。重要なのは、違いがある場合に「合理的な説明」ができる制度設計になっているかどうかです。

対応方法の例としては以下のような運用が考えられます。

  • 共通の賃金規程をベースに、雇用形態別の補足資料を整備
  • 正社員・契約社員・パートごとに別規程を用意
  • 一部の手当(例:役職手当など)を「正社員のみ」とする場合は、その目的・背景を明記

例えば、「家族手当が正社員にしか支給されない」といったケースでは、「正社員は扶養手当を含む福利厚生の一環として提供している」という支給目的の記載が重要になります。

このように、単に「待遇が違う」という事実ではなく、その差が職務・責任・貢献度に基づいたものであることが明確に説明できる制度設計が求められます。

賃金規程の改定手順と注意点(労使協議・届出・周知)

賃金規程を改定する場合、就業規則の変更手続きと同様に、法的なフローを踏む必要があります。 これは、企業の規模や改定内容によっては義務化されているものです。

なお、これらの手続きは労働基準法に基づき定められています。関連条文はe-Gov法令検索からご確認いただけます。

基本的な流れは次のとおりです。

  1. 労働者代表からの意見聴取
  2. 所轄の労働基準監督署への届出(常時10人以上の事業所)
  3. 従業員への周知(紙面、データ、掲示など手段は問わない)

ここで注意すべきは、「周知義務を怠ると、改定後の規程が無効とみなされる可能性がある」という点です。特に不利益変更(たとえば手当の廃止や減額)を伴う場合は、労働者一人ひとりの個別同意が必要となることもあります。

志賀佑一

トラブルを防ぐためには、改定前に十分な説明期間を設ける、書面での通知と説明会を行う、質疑応答の機会を用意するなど、社内での合意形成の工夫が重要です。

また、賃金規程の改定では、「賃金支払いの法的ルール」を正しく理解しておくことが重要です。よくあるトラブルや罰則の事例を知っておきたい方は、以下の記事をご確認ください。

規程が“あるだけ”にならないための運用ポイント

最も多い相談の一つが、「規程はあるけど誰も中身を理解していない」「人事も説明できない」という“死んだルール”の状態です。これは、制度の内容よりも運用体制の不備が原因であることが多く、せっかくの規程整備も意味をなさなくなってしまいます。

規程を“生きた制度”として機能させるには、以下のような運用体制づくりが有効です。

  • 制度説明を評価フィードバックや給与通知とあわせて行う
  • 人事担当者・管理職向けに内容理解のための研修やマニュアルを整備
  • 年1回など、定期的に制度の説明会や勉強会を開催

また、制度運用においては、「制度そのものが時代に合っているか」「社員の価値観とズレていないか」も定期的に確認する必要があります。

変化の激しい現代において、制度は“固定”ではなく“進化”させていくべきものです。運用体制と改善サイクルが整った企業ほど、賃金制度に対する信頼度・納得感が高く、社員の定着にもつながります。

まとめ:賃金規程の整備に取り組む際に押さえておきたい重要ポイント

賃金規程の整備は、単なる書面づくりにとどまらず、企業の人事制度全体を見直す大切な機会でもあります。公平性や納得感のある制度運用を目指すためには、どのような点に注意して整備を進めるべきなのでしょうか。

ここでは、賃金規程の整備に取り組む際に押さえておきたいポイントをまとめました。

押さえておきたいポイント
  • 賃金規程は就業規則とは別に整備することで柔軟な運用がしやすくなる
  • 規程の整備前に自社の制度設計方針を明確にしておくことが重要
  • 手当や賞与などの支給ルールは具体的に記載して曖昧さを避ける
  • 評価制度と賃金の連動がある場合は仕組みを明文化する
  • 納得感を高めるには制度の意図や背景を社員に丁寧に伝えることが必要
  • 雇用形態別の違いは合理的な根拠を持って明確に区分する
  • 改定時には労使協議・届出・社内周知を適切に実施することが不可欠

賃金規程の整備は、経営と社員をつなぐ重要な“ルールの言語化”です。制度そのものの見直しから、現場での説明や改定の運用に至るまで、一貫した対応が求められます。

今回のポイントを参考に、自社の規程が今の時代や組織に合っているか、ぜひ改めて確認してみてください。

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志賀佑一

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